関連文献の紹介「輪廻転生・過去世記憶」
生まれながら前世のことを覚えているといっても、それが何らかの形で証明されなければ意味がない。そういっためずらしい例を集めて系統的に研究した先駆者は何と言ってもヴァージニア大医学部精神科のIan Stevenson教授である。前世記憶を持つ多数の子供を扱った、この分野での古典とも言える彼の代表著書。
前世を記憶していると主張する子供たちについて2000例を越える世界各地の事例から得たデータをもとに執筆されている。論理的、統計的に厳密に書かれた本であるため、少々読むのに苦労する。
以下要約。
「2000の事例は、今までに生まれた全人類の数に比べたら微々たるものなので、これから結論を出すのは早計に過ぎる。
また前世記憶を持つ子供は極めて特殊な例であるから、これを以ってすべての人に一般化するのは危険だ。
前世を記憶していると主張する子供たちは、通常2才から5才までの間(平均3才2ヵ月)から、前世の記憶を話し始め、5才から8才までの間に話をしなくなる。5才を過ぎると、言葉の発達から記憶の元になるイメージが覆い隠されて記憶の喪失が起こるらしい。
前世の自分の死に様を覚えているという者が四分の三近くあり、しかも自然死の時よりも横変死を遂げた時の方が、死の状況を記憶している比率が高い。こういった子供たちは前世の名前、友人や仇敵の一部の名前を覚えている場合が多い。また生活していた場所のイメージや名前を覚えていることがある。
行動的記憶(食べ物に対する嗜好やあることに対する恐怖心)はイメージ記憶よりも長期に渡って保持されることが少なくない。行動的記憶の元になった前世での体験のことは忘れてしまっても行動的記憶は残る。こういった前世記憶は『生まれ変わり』によって得られたものとは断定できない。テレパシーによって得ている可能性もあるからだ。しかし生まれ変わりということを認めるといくつもの(他では説明しにくい)ことが説明できる。たとえば、幼少期に見られる異例の能力とか、一卵性双生子に見られる相違点である。」
被験者のキャサリンという女性が、自身の過去世について思い出していくことで精神上のさまざまな問題を克服する。この本が他の退行催眠療法の本と比べて特徴的なのは、被験者を通し何人もの高次の精霊達(マスター達)が人間の精神上の進化について語るという点である。被験者がいわゆるチャンネラーになっている。被験者が退行催眠中に、ちょうど一つの生を終えて次の生へ移るまでの中間状態にいるときにこれが起こる。精霊達が近寄ってきて、被験者の口を通じてメッセージを伝えるのだ。メッセージは、示唆的で重要な内容を含んでいる。
この本で一つだけ気になるところがあるとすれば、催眠療法で過去世に戻った被験者に、その時代を聞くと、しばしば、「今は紀元前何年です」という答えが返ってくることだ。これはどう考えてもおかしい。この点に関して著者はまったく疑問に思わなかったようで、特にコメントはしてない。この一点のために、この本全体の信憑性が崩れてしまうのは、何とも勿体ないことなので、著者の合理的な説明を求めたいところである。マスター達が被験者に時代に対する知識を与えたのだろうか。
著者の一人Joel L. Whittonはトロント大学の精神科医を勤める人で、あるトロントの主婦を催眠療法で過去世に戻している時に、生まれる前の世界について語り出したことから、人生と人生の間の期間について催眠療法で調べ始めたと言う。
以下要約。
「死後、今まで他の本で記述されていたような臨死体験をした後、バルドウという精神状態に入る。ここには時間も空間も存在しない。この状態を表現することは非常な困難を伴う。美しい所で、心の故郷に帰ったという感じがする。また宇宙との一体感がある。
三人のジャッジの前で(四人や七人の場合もあった)前回の人生についてもう一度回顧させられる。その人生回顧は、自分の為に他人が得た苦しみが自分のことのように感じられるので、苦痛を伴う体験だ。ただジャッジは親切でいじめたりしない。
次に、次の生についての検討に入る。成長に何が必要かを議論し概略を決める。嫌々その生を受けねばならないことも多い(たとえば身体が不自由になって生まれるとか)。詳細については実際に生きていく本人の選択に依存する。本人の意志によって人生は変わる(自分の人生は自分の責任だ)。また人生の要所毎にチェック・ポイントを設けておき、そこで選択を誤ると死んでしまうことがある。
人間は何回も生を重ねることで進歩して行く。遅く行く人もあり速く行く人もある。愛と奉仕の精神が、自己の成長に本質的な役割を持つ。ただし、報酬を求めて良いことをすると、その報酬を得るために、この世にまた生まれて来る。この糸が切れない限り、魂は自由になれない。
前の人生と次の人生との間が10ヶ月のこともあり、800年のこともある。人間に生まれることは、ちょうど水夫が水の中に潜るようなもの。水の上に出れば自由になるが、水の底にある宝を見つけるまで何回も潜る必要がある。」
過去世の記憶を呼び起こす方法について述べている本。いろいろな方法が詳述されている。
それらのうち夢による方法のみを以下に要約する。
夢で過去世を見る方法
我々が通常見る夢の中には過去世の情報を含んでいると考えられるものがある。問題はそれをどうやって見分けるかだが、多くの場合、過去世のことを夢に見ているという意識があり、すぐにそれとわかる。
あるいは着ている服装が他の文化や時代のものであったり、夢に極めて現実味があったり、忘れることができないくらい強烈な衝撃を受けたりすることでそれとわかる。
過去世に関する夢を意識的に見るには、その前に夢を普段から覚えておけるようにしなければならない。そのためには、夢について毎日記録を取る習慣をつける必要がある。
次に夢に何を教えてもらいたいか考える。それが決まったら一つの簡潔な文にする。ここで気を付けねばならないのは、自分にとって苦しすぎる過去世の記憶は思い出したくないとはっきり潜在意識に言っておくことだ。そして眠る際にこの文を数回大声で読み、眠りに落ちる時にそれに心を集中させる。
もう一つの夢による方法は、明晰夢を利用する方法である。これをやるには、
- A)寝る前に何度も明晰夢を見たいと念じる
- B)昼間に何回も「今夢を見ているか」と自分に問う習慣を付ける
- C)この質問を紙に書いてそこら中に貼っておく。
こうすることで明晰夢が見られるようになり、夢の中で目覚めたら、「過去世に行ってみたい」と願う。著者(Michael Talbot)の場合、こう念じたら、過去世の一つに行けたという。知識と慈悲にあふれた人間の形をしたエネルギーの存在が現われ、著者の手を引いて、文字通り雲を通り抜け時間をさかのぼって、過去世の一つに連れてってくれた。このガーディアンの助けを借りるのが最も安全な方法で、古代からチベットやアメリカ・インディアンに用いられていた。
自分の過去世を見るということでは、モンロー研のHemi-Syncがいかに優れているか、今更ながら感じられる。
生まれ変わり(Reincarnation)を異端視するキリスト教文化の色濃いアメリカに於いて、しかも60年代に、大学教授がこの手の本を出版することは、かなり勇気のいることだったと思われる。
アメリカに住んで感じることは、この国民は日本人が想像している以上に敬虔なクリスチャンだということだ。毎週日曜になると教会のまわりは日曜学校に来た人の車で大渋滞を起こしていることや、国民の相当数(新聞に出ていた統計では確か 40%ぐらいだったと記憶している)が進化論に対して懐疑的だという私にしてみれば驚異的なデータを挙げれば理解していただけると思う。
70年代になるまではキリスト教の教えに真っ向から反する「生まれ変わり」について真面目に論じることはタブー視されていた。その中、こういった本を出版したことは、ガリレオやコペルニクスの業績にも匹敵すると言っていい。こういった事情もあってか、著者の「生まれ変わり」を扱う態度は非常に慎重だ。
著者は2000の事例は微々たるものだとして、一般化することに謙虚である。
これは研究者として取るべき態度として正しいと言える。しかし、例えば「全人類は生まれ変わりをしない」という命題は、たった一人でも生まれ変わったことが証明されれば、論理的には、論破できるので、必ずしも情報の量ではなく質が重要になると思う。ただし、完全に「証明」することはできるのか、という疑問は常に残るが。